道具の話 鯛牙(たいき)

鯛の歯並びが気になります。
漆工芸に関わっていると、妙な物を集めてしまいます。
そのひとつが鯛の歯です。

金蒔絵の表面を磨いて艶を出す鯛牙(たいき)という道具の材料です。
鯛の歯をお箸程度の軸の先に取り付けて使います。
なるべく大きくて、割れや欠けのない、表面のエナメル質がピカピカしている歯を狙います。
スーパーで大きな鯛の頭を見つけたら買って帰って歯並びチェックです。

良さそう歯があれば調理前に顎の骨ごと外します。
なので、ウチの鯛(のあら)料理はかなりの確率で口先がありません。
ごく稀に、ちょっと大人なお料理屋さんに行くと、鯛の兜煮が出てくる時がありますが、もう、歯が気になって仕方ありません。

鯛牙をつくる・下拵え

こっそり口の中を覗いて立派な歯があると、板前さんにお願いして外してもらいます。
鯛の歯を外すのはなかなか大変なので、こっそり持ち帰るのは不可能です。
焼かれると歯の表面が荒れてしまうため、大きな鯛でも塩焼きされてしまうと非常に残念です。
歯の付いた顎の骨ごと綺麗に洗います。身はブラシを使って丁寧に取り除き、水に浸けます。
塩分や匂いが抜けるまで何度も水を替えます。

乾かせば下準備完了です。
これを道具に仕立てます。
状態の良い、大きな歯を選んだら、傷つけないように顎の骨から外します。

鯛牙をつくる・仕立て

人間の歯と同じで、顎の骨に付いていた部分には小さな穴があります。
神経が通っていたのでしょうか。

持ち手はお箸にしました。
細い絵筆の軸でもいいです。
そこに針を取り付けます。
小さなリーマーかドリルで下穴を開けてボンドで固定してもいいですし、切り込みを入れて針を挟んでもいいです。
針は取り付ける歯の穴の深さ程度(数ミリ)の長さにカットします。

鯛の歯を針に接着剤でセットます。
ぐらついたり外れたりしないように歯の根本に糸を巻いてこれも接着剤で固めてしまいます。
この時、接着剤が歯先に付かないように気を付けます。
接着剤が付いたまま気が付かずに蒔絵の表面に当てると絵が傷つきます。
持ち手を使いやすい長さに調整したら完成です。
蒔絵のごく細かい部分を磨けるように小さい歯でも作っておけば使えますが、何せ歯が小さいのでなかなか大変です。


もし、大きな鯛の口の中を覗こうとしている人を見たら、蒔絵のお仕事されている人かなと思って、温かく見守ってあげてください。