道具の話 蒔絵筆

金継ぎと蒔絵筆

蒔絵に欠かせない蒔絵筆。
金継ぎでも使います。
金継ぎは伝統工芸である漆芸の技が基本です。

その技のひとつが蒔絵です。
蒔絵にも種類があるのですが、1番よく見られる蒔絵は漆で描いた図柄に金や銀の金属粉を蒔いて装飾しています。この蒔絵の技法がまさに金継ぎの仕上げにあたります。

そして、漆で繊細な図柄を描くときに欠かせないのが蒔絵筆です。
穂先の長さや細さはいろいろありますが、材料は基本動物の毛です。
(写真の右2本は広い面積を塗るときに使う地塗り筆。白鳳堂製)

蒔絵筆

根朱筆(ねじふで)

蒔絵筆の中に根朱筆と呼ばれる特徴的な作りの筆があります。
穂先の長さを調整する為に穂先部分が軸から抜けるようになっています。
穂先を長く出して漆を含ませることで一息で細くて長い線を描くことができます。

蒔絵筆の構造

本来、この根朱筆の材料は鼠の毛だったそうです。それも木造船に住んでいるクマネズミの腋毛が最適なのだそうです。どうしてそこに行きついたのか謎です。
近年は材料の調達が困難で作られていないと思います。私も資料として保管されているのを見ただけで使ったことはありません。

伝統工芸を守る為に道具の調達を目指して過去に筆のメーカーが再現を試みたようですが、未だに流通していないところを見ると難しいようです。かといって諦めない方もいらっしゃいます。筆に使えそうな鼠を飼ってねじ筆の再現を目指しておられるそうです。

現在この構造を採用して作られた「根朱替筆」というは筆があります。本来の根朱筆の「替わり」となる筆ということです。
細さや長さによって軸の色が決められていて赤軸・黒軸・黄軸などと呼ばれています。漆芸材料店で扱っている事もありますが、京都には筆専門の店があります。
職人の道具を作るもの職人なのです。

御蒔絵筆司 村田九郎兵衛(村九)

本格的に漆芸を学ぶようになった時、こちらのお店にお世話になりました。太さや長さ、材質・サイズ違いで数本をまずお願いして、その後、必要に応じて購入しました。その中に根朱替筆もありました。

お店といっても店先に筆が並んでいる訳ではありません。必要な筆を前もってお願いしておいて、取りに伺います。
お店は京都市内の中心街から通りを入った所にありますが、初めて伺った時はそこで合っているのかと入るのを躊躇しました。京都らしいと言えば京都らしいのでしょうか。
私が金継ぎを始めた20 数年前、大阪にも蒔絵筆や漆刷毛を作る職人さんがおられたと記憶していますが、現在蒔絵筆を作っておられるのは村九さんだけかもしれません。
伝統工芸に関わる道具の調達は年々難しくなっています。代替品を探して使っていますが、一度は本物を使ってみたいものです。

筆は消耗品と言えます。毛先数ミリの水毛と言われる部分が擦り切れてなくなってしうとその価値は失われてしまいます。なので、筆の手入れにはとても気を使います。

現在私が使っている蒔絵筆でさえ、もう手に入らない時が来るのかもしれません。